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解放された女性はそのほとんどが五年前に王都を追われた貴族の奥方で、年齢的にも四十代。赤子は彼女たちの子ではなく、一緒に捕らえられたのだと聞いた。
売れないだろう年齢の女性と、連れ歩くには面倒の多い赤子と妊婦を使ったのだ。
卑劣なやり方だ。まるで人を人とは思わない行いに、ファウストは密かに怒りがわく。
そこに、ガサリと雪を踏む音がして振り向いた。長い白髪に、狼を従えた青年が静かに、ファウストの側へと進んできていた。
「ファウストってのは、あんたか?」
「あぁ」
「私はフェレスだ。話がしたくてきた」
不安げに瞳を揺らしながら、それでも前を向いたフェレスをファウストは見据える。そして、少し離れた焚き火の側へと案内した。
倒木の一つに腰を下ろし、フェレスはしばらく側にいるグレーの大きな狼の毛を撫でている。話だす、その心を整えるように。
「女性達は、落ち着いたのか?」
問うと、ビクッと肩が震える。それでもゆっくりと、首を縦に振った。
「あんた達に従うように言って、了承を得た。セヴェルスとの話をして、あいつが守ってくれるって説得したし…正直、限界だったんだ」
項垂れるフェレスの頬を、狼は元気づけるように舌で舐めている。くすぐったそうにしながら、フェレスは薄く笑った。
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