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奪還(シウス)
最後に覚えている景色は、まだ暗かった。
ゆっくりと目が覚めていくと、そこはほのかに明るく、そして温かい。体は重怠く痛んだが、死ぬかもしれないという不安からは脱していた。
「シウス様!」
強く手を握る、その声に首を動かした。
大きなライトブラウンの瞳に沢山の涙を溜めた愛しい子が、今にも崩れ落ちてしまいそうな様子でそこにいる。
「ラウル…」
「シウス様ぁ」
微かに出る声で名を呼べば、少年特有の愛らしい表情で泣き出してしまう。
抱き寄せたいのに、体が言う事をきかない。流石に大きく動く事は叶わないようだ。
「シウス様」
「オリヴァーかえ。手間をかけたな」
「いいえ」
穏やかにオリヴァーが笑い、ラウルの頭を柔らかく撫でる。そこに他意などないと分かっていても、少し悔しくは思う。
シウスは入らない力を入れて体を起こした。
「シウス様、無茶は!」
驚いたラウルが声を上げたが、シウスは構うことなく彼の頭を抱き寄せて胸に埋めた。温かな体は腕の中で身じろぎもせずジッとしている。肌に伝わる心音が、とても愛おしかった。
「ラウル。私の愛しい子。私は今、とても嬉しい。生きて、この手に再びそなたを抱ける事が、何よりも嬉しい」
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