奪還(シウス)

1/14
前へ
/173ページ
次へ

奪還(シウス)

 最後に覚えている景色は、まだ暗かった。  ゆっくりと目が覚めていくと、そこはほのかに明るく、そして温かい。体は重怠く痛んだが、死ぬかもしれないという不安からは脱していた。 「シウス様!」  強く手を握る、その声に首を動かした。  大きなライトブラウンの瞳に沢山の涙を溜めた愛しい子が、今にも崩れ落ちてしまいそうな様子でそこにいる。 「ラウル…」 「シウス様ぁ」  微かに出る声で名を呼べば、少年特有の愛らしい表情で泣き出してしまう。  抱き寄せたいのに、体が言う事をきかない。流石に大きく動く事は叶わないようだ。 「シウス様」 「オリヴァーかえ。手間をかけたな」 「いいえ」  穏やかにオリヴァーが笑い、ラウルの頭を柔らかく撫でる。そこに他意などないと分かっていても、少し悔しくは思う。  シウスは入らない力を入れて体を起こした。 「シウス様、無茶は!」  驚いたラウルが声を上げたが、シウスは構うことなく彼の頭を抱き寄せて胸に埋めた。温かな体は腕の中で身じろぎもせずジッとしている。肌に伝わる心音が、とても愛おしかった。 「ラウル。私の愛しい子。私は今、とても嬉しい。生きて、この手に再びそなたを抱ける事が、何よりも嬉しい」     
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

633人が本棚に入れています
本棚に追加