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故郷はここであるとはっきりと分かる。今を生きる場所を変えたとて、根本が変わるわけではない。それを今回、何度も噛みしめるようにシウスは思っている。
「町の暮らしは、楽しいばかりではない。夢破れる事など常であり、人との摩擦や衝突など日常の事。辛い事、苦しい事は森の生活とは違った苦悩を与えてくる。だがそれは、エルであるからではない。同じ土地、同じ家の中に産まれた者の中でも容易に発生してくる。だからこそ、疲れたら戻ってくれば良いのだと思っておるよ」
不安げに見上げる双子の頭を撫でながら、シウスは穏やかだ。そしてこの言葉を、己にも許している。
疲れたら少しの間戻ってこよう。そうして元気を貰えたなら、再び前に歩み出せると。
「そう、心配にするな。苦しい時は私がおる。相談してくれてよい。まずは一時、預けてくれるか?」
顔を見合わせる兄弟は、やがてシウスを見て確かに頷いた。
「私たちは明日、この人達に従って森を出ます」
「セヴェルス様は、出られないのですか?」
双子の問いに、シウスはしっかりと頷く。
離れて見ているファウストが、どこか申し訳無く笑っている。その表情だけで、何かが起こっている事は察せられる。動くわけには行かない。
「私は使命がある故な」
「お側でお守りいたします」
「いや、それには及ばぬ。私には愛しい子がついておる故な」
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