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「様子だけ伝えてくれればいい。無理に接触などすれば、攻撃を受けかねない。彼らは強いからね、戦いは避けたい。それに森で血を流すような事をすれば、彼らは絶対にこちらにはくだらない」
「かしこまりました。では、引き続き監視をいたします」
「頼むよ」
ヴィンセントの言葉に頭を下げた男達は、そのままどこかへと姿を消した。
フッと息を吐く。相変わらず指は肘掛けを打っている。苛立つわけではないが、少し懸念もしている。
放浪の民。
彼らの始まりは十四年前の『エルの悲劇』だったが、その後に起こったカール四世暗殺未遂事件で王都を追われた者も含まれている。戦いを好まない女性やその子供が大半だ。
東の森林地帯に住み、その姿を現さない彼らは戦えば強い。そして、抱える人数は五百を超えている。
国の政策に従う訳でもない彼らの扱いは「要注意」だが、テロリストとは違う。いうなれば中間だろうか。
国も彼らの扱いに苦慮している。人数が多いだけに下手な事をすればテロリストに変わりかねない。そうなると厄介だ。
そんな微妙な立ち位置の彼らを攻撃している奴らがいる。新進のテロリスト…というよりは、闇商人に『品物』を売りつける奴らだ。
エルの民は美しい。流れるような白髪に、色の白い肌、瞳の色は虹彩がはっきりと浮き出しそこだけ色を変える。故に商品価値が高いのだ。
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