東の異変(ヴィンセント)

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 それに加えて都を追われた元貴族の奥方も多い。奴らにとってこれほどに魅力的な奴らはいない。  当然人身売買は違法であり、捕まれば極刑。だが、それ故に値が高騰している。どれほど法を整えようと裏をかく者はいるし、ひっそりと行う者もいる。ある意味でいたちごっこだ。 「さて、どうしたものかな…」 「あんたも苦労多いわね」  背もたれに身を預けたヴィンセントの背後で呆れた声が飛んでくる。楽しげに瞳を和らげたヴィンセントは、そちらを見て綻ぶように笑った。 「いたのかい、アネット」 「いたわよ、少し前から」  腰に手を当てた彼女は歩み寄って、サイドテーブルに紅茶を置いた。  ヴィンセントはカーライルの側に戻る前に、彼女の元を訪れた。謝罪しようと思ったのだ。  だが彼女はまったく怒っている様子もなく、実に素っ気なく「よかったわね」と言ってくれた。そのカラッとした性格が実に好ましく思え、かつ事情も知っている人が側にいてくれる事を望んでしまった。  更に何度か通い、彼女の娼館を仕切る主人とも話をして身請けしてしまった。  今の所、籍は入れていない。扱いとしては内縁なのだが、ヴィンセントはいつでも彼女を妻にするつもりだ。そこに待ったを掛けているのは、アネット自身だ。 「さぁ、今日の紅茶は何点かしら?」     
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