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挑むような瞳で言う彼女に笑いかけ、出された紅茶を飲み込む。茶葉の香りは十分にしている。だが味が薄い。毎日味が安定しない。
「うーん、六十点」
「六十点! 昨日より悪いじゃない」
「味が薄いよ」
「昨日は味が濃いって言ったから」
「極端すぎるよ。茶葉によって蒸らす時間や好む温度があるし、ポットも温めてから使わないと。寒くなってきたから白濁してくるよ」
「…明日またリベンジするわ」
「待っているよ」
クスクスと笑ってヴィンセントは紅茶を、また一口飲み込む。日々こうして彼女から挑戦を受けるのが、実は楽しみでもあるのだ。
娼婦であった彼女は、実は色々と不器用だ。当然だ、西の娼婦とは違い彼女は平民だ。貴族の生活というものに馴染みがない。
ヴィンセントとしてはそれでもいいと思っている。貴族らしい女性は望んでいないし、違うからこその驚きや楽しさがある。彼女から受ける刺激は日々の楽しみでもあるのだ。
だが彼女としてはそこがいけないらしい。
「あんたみたいなお貴族様の奥方なんて私はなれない。恥をかかせるから愛人程度に留めて」と、平然と言った彼女には驚いた。身請けを申し出たときの事だ。
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