カモミール1

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いまの時代、女性は「絶対に結婚しなきゃいけない」というわけではない。  もうそろそろ、不惑にさしかかる年代になった弓香には「経験ない情報」が友人から、まるで湯水のように吐き出されてくる。 義両親とうまくいかない、夫が家事に協力してくれない、子供を預けようとすれば嫌な顔をされ、保育園は見つからない。ぼろぼろ、ぼろぼろ吐き出されてくる。  まるで、八方ふさがりじゃない。家事も仕事も育児も、ぜんぶやって当たり前。やらなきゃ、だめな嫁と怒られて、夫は助けてくれない。 最初から平行線でしかない、人間関係を続けるなんて。 一人でいたほうが、まだましだわ。  断ろう、私にはもったいないとか、嘘をついておけばいい。  当たり障りなく、両親に話そうとしたころ、既に身動きできなくなっていた。  周囲は「結婚」の二文字へ加速していて、巻き込まれていた。  両親から「電話だけじゃ失礼だから、もう一度挨拶しに行こう」と週末、連れて行かれた場所で、弓香は言葉を失った。白くて、十字架がついているチャペルと、バンケットルームが連なる、瀟洒な建物が待ち合わせ場所になっていた。  断ろうと思った弓香の前に、黒いパンツスーツでインカムマイクをつけた女性がやってきて「おめでとうございます」と言った。  名札には、プランナーと書かれていた。  ここまで来て、逃げるようなことはしないでね。耳打ちする母親の言葉に、ぞっとした。  智之はそこでも、へらへらとして、ただ従うだけだった。  ないがしろにされて、仕方なく式をあげた。そうするしかないと、覚悟を決めろと、仕事から帰るたびに繰り返され、弓香は断る気力も失せた。  いや、断ることができないほど、物事は進んでいた。  式場はもちろん、日取り、入籍、指輪、弓香が着るドレス、智之のスーツ、料理に、入籍後ふたりが住む家まで、なにもかも。  自分が意見を述べる前に、当事者である自分や智之はないがしろにされて。  せっかく結婚できるのよ。  大丈夫だ、俺の同級生が舅になるんだから、いじめられたりしないよ。  お母さんいい人そうじゃない。  お前が操縦すればいいんだ、家族はそうやってできあがるから。  送り出した両親も、そこに加わっていた。  家族だけで挙げた式でもやはり、智之はあまり話さず、弓香は始終不機嫌にしていた。
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