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二年前、自分たちがしたことと、二年間してきたことを思い返して、そんなことをよく頼めるものだと、ある意味「面の皮の千枚張り」とも言ってもおかしくない、佐代子の出した提案に、弓香は「勝手すぎる」と久々に、苛立ちがつのった。
既に除籍され、義理の家族とは縁が切れている。
美智佳という、子どもがいる女性がきちんと後妻におさまって、智之はあの家で暮している。
弓香が、窮屈で、息苦しくて仕方がなかった、あの家で。
「ねえ、弓香さん、お願いだから考えてくれない?」
再び、すがるように佐代子が自分を見る。
その視線が、濁った黒目が弓香はたまらなく嫌いだった。
どんよりとしていて、吸い込まれて、窒息してしまいそうで見たくない。目をそらしたついでに、立ち上がり、電気ケトルで沸かした湯でハーブティーを淹れた。
佐代子があまり好きじゃない、カモミールティーを。
弓香が「ところで、智之さんは、どうしているんです?」と訊くと、佐代子は眉間にしわをよせ、残念そうに答えた。
「あの子は、私たちと住んでいたときと比べて、とても明るくなったわ。なんだか、実の息子なのに、息子じゃないみたい……別人みたいなのよ。美智佳さんから影響を受けたに違いないわ。本当に……息子じゃ、ないみたい」
「明るくなったなら、いいじゃないですか」
「おとなしくて、聞き分けがいい子だったのよ。なのに、美智佳さんと暮らすようになって意見とか自分がはっきりしてきたような感じがして……。私たちに『約束もなく、来ないでほしい』とか、お父さんにはタバコを吸わないようにきつく叱ったり、いったい、どうしちゃったのかしら。あんな智之、見たことがなかったわ」
二年前、自分といたときよりも智之が、成長している。
そんな印象を、悩む佐代子とは反対に、弓香は感じた。
結構なことじゃないか。
離婚して、一方は再婚し、もう一方はマイペースな暮らしを得た。
結果、お互いにとって、より快適な生活を得ることができた。
パートナーは違うし、生活する環境も異なる。
けれども、智之は美智佳がいることでいいほうへ向かっている。弓香は、自分が選んだ家具や、雑貨に囲まれて暮らすことが出来る。
取り残されて、すがりついているのは佐代子だけ。
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