【第三章:風の狩場とカルマの谷 二十六】

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 スズはマヌルがハリウッド映画のアクション俳優のように、ロケットランチャーやマシンガンを大量に体に身に着け、黒煙と爆発の炎を背景にゆっくりと歩いてくる姿を想像した。  重低音の効いた凄みのある音楽付きで。 「でも、魔獣は飛んで来ないんですよね?  そんなに重装備で構えなくても良いんじゃないですか?」 「緊急事態が無い事と、それに備えない事は全くの別物です。  ただし、それが権力の乱用や、一部の者にとってのみ都合の良い、弱者を支配するような方策であってはいけませんけどね。  それに昨夜、彼はああ言っていましたが、長になる者には、魔力の大きさや多さだけでなく、盾となって皆を守るだけの度量と力量が求められるものです。 『民の中心に立つ者は、常に的の中心であれ』という言葉もあります。  己が狙われる事、犠牲になる事を恐れず、なおかつその重圧も苦労も見せない事により、民も心苦しく感じる事無く、日々心安らかに生活ができるのです。  だからこそ、強大な力を持つ者には、周囲に悟られないほどの謙虚さと理性と知性、そして全ての民に対する理解と深い愛情が必要になるんです!」  ブラッドが真っすぐに前を見て、早口だがしっかりした口調で言い切った。  スズに聞かせるためというよりも、彼の中の長年の想いを吐き出したかのようだった。 「……尊敬してるんですね。お父さんのこと」  スズがそう言うと、ブラッドは今までに見た事のない表情でスズを見つめ返した。  マレビトでいえば、きっと赤面しているのだろう。  ブラッドがそんな態度をとるのが予想外でもあり、スズにはそれが可愛らしく感じられた。 「どうだね? 似合うかね?」  着替えを終えたマヌルがテントから掛け声と共に顔を出した。  続いて現れたその姿に、スズは思わず吹き出しそうになったが、理性でそれを無理に抑えようとしたため、激しく咳き込んだ。
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