【第三章:風の狩場とカルマの谷 二十六】

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 マヌルの肉体はたぶん程良い筋肉質なのだろうが、モコモコの長毛をジャージの中に無理に詰め込んだため、同じハリウッド映画と言っても、幽霊退治映画のラスボスか、子供向けアニメのふんわりとしたロボットのように、その姿ははち切れんばかりに、ぱっつんぱっつんになっていた。 「なんていうか……いや、なんか、抱きしめたい感じで良いんじゃないかと思います」 「そうかね! ありがとう! 大切にするよ!」  マヌルはスズをぎゅっと抱きしめ、フンフンと耳元の匂いを嗅いだ。  そしてスズにだけ聞こえるように小さな声でこう言った。 「それにブラッドが私にあんな優しい言葉をかけてくれるなんて、物心つく前以来だよ!   本当にありがとうスズ君!」  それから体を離して両手でギュッとスズの手を握り、今度は周囲の全員に聞こえる声で、こう最後の言葉をかけた。 「……君がもし、元いた世界に帰る事になって、大人になっても、どうか忘れないでほしい。  そしてもし伝えられるのなら、今君の世界で“大人”と呼ばれる年齢の者にも伝えておくれ。  この星の命は全て、母なる大地と父なる天の間に産まれた、“虹の子供たち”なのだと」  その後マヌルはメンバー全員にハナチューをし、(もちろんブラッドは最後に熱烈にされていた)ウルルの涙と共に郷の民から惜しまれながら、スズとシルフの皆はマヌルの郷に別れを告げた。  ハチワレ・ブラック号に戻り運転席に着いたブラッドは、進行方向を真っ直ぐに見つめながら、柔らかな表情で傍らにいるスズにつぶやいた。 「私からもお礼を言います。  君がこの世界に来てくれて良かった」 (ジャージひとつでそこまで喜んでもらえるとは思わなかった)と、スズが照れて言葉に詰まっていると、そんな彼に向かってギンコがヘッドロックをしつつ嬉しそうに声をあげた。 「ほら~、やっぱりスズを連れてきて良かったでしょー!  何かきっかけがないと、お父さんに素直になれないもんねー、ブラッドはー!」  ブラッドは「はい、はい」と受け流しながらも、どこか幸せそうに答えた。 「認めますよギンコ。  君にはマレビトを見る目がある」  ブラッドはマヌルとウルルの面影のある、美しい瞳で笑った。
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