【第三章:風の狩場とカルマの谷 二十四】

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「例えば我々ネコタミのように肉食を基本とする肉食動物は、マレビトとは違って、ビタミンの豊富な生肉も食べることができますし、ビタミンCを体内で合成できます。  逆に草食動物の体内には、植物からアミノ酸を合成する微生物がおり、肉を食べなくてもタンパク質を摂取することできます。  これと似たような効果と言うか、フートの実は植物なのですが、中に特殊なバクテリア、窒素固定菌の一種が繁殖しやすいのです。  乾燥したフートの実でも、中心部には充分な量のバクテリアが生きて存在しています。  そしてそれは腸内細菌として、食後一定期間体内に留まります」  そう言って、ブラッドが包丁を使う手を休めてスズを見つめた。 「つまりだね、空気と水さえあれば、お腹の中に入った菌のおかげで、数日間は何も食べなくとも、必要な栄養が取れるというわけなのだよ」    眉間にしわを寄せて口を半開きにした表情でブラッドを見つめるスズに、マヌルは単純な説明を補足した。  ブラッドと同じ、赤く深い色の瞳で笑う彼の手元の皿には、たっぷりの肉が盛られている。  ブラッドは微笑んで話を続ける。 「ですが、我々肉食の生物の腸内ではその菌の繁殖は向いておらず、すぐに死んでしまいます。  そういった意味においてもフートの実は本当に『非常食』なのです。  植物性のタンパク源でもあり、動物性のタンパク源でもある貴重な食物なのですがね。  雑食性のマレビトの中にはこの菌が腸内環境に合う者もいるようで、何年も食べ続けた結果、水以外には何も摂取せずに生きていける体質になり、いわゆる『仙人』と言われるようになった者もいます」 「……最初のサーカスの時の食事会で、『栄養価が高いから』的な事を言ってませんでしたっけ?」  スズが先程の表情のまま、ブラッドに質問した。 「ははは、すみません。  あの時点ではスズ君がどの程度信頼できるマレビトか、この世界にいる期間がどれほどになるのかも解らなかったものですから。  もちろん、フートの実自体の元々の栄養価も高いですし、ビタミンもタンパク質も豊富ですよ」
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