【第三章:風の狩場とカルマの谷 二十四】

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 スズはてっきり、今日の狩りの成果である岩イノシシを料理するのかと思っていたが、これは『今年の収穫を祝い、かつての収穫を感謝と共に食べつくす』お祭りなのだそうだ。  もちろんそれは比喩的な表現で、実際に去年の収穫の岩イノシシなどの全てを無理やりに食べつくす事はなく、郷のみんながお腹いっぱいになるまで食べる、食べ放題祭りのようなものだ。  狩りに参加した者も参加しなかった者も同じく、犠牲獣の肉を皆で平等に分け合って食す。  この分配法を『又犠勘定(またぎかんじょう)』という。  そういうわけで、貯蔵庫の中から古い順に肉や魚などを調理場へ運び出しては様々な料理を作り出すのが、今のスズたちの仕事である。  それだと新鮮で美味しい時の肉は、いつになっても食べられないのではないかとスズは疑問に思ったが、「鶏肉など傷みやすい物は別ですが、管理の仕方さえ良ければ、基本的には熟成させた方が肉は美味しいのですよ」と、ブラッドは笑った。  また、今回こうして料理を教わりながら、生の肉は半解凍程度の方が切りやすい事、鼻が慣れてしまうせいか、料理が出来るのをただ待つよりも、こうして自分が料理を作っている方が美味しそうな匂いを感じず、食事に対する執着や、空腹感が薄れる事も知った。  もちろん、事前にフートの実を食べておいた満腹感もあるが。  そうでなければ、ごく一般的な中高生の男子と同じく、肉が好物のスズにとって、辛すぎる夜となっただろう。  スズはふと、母が作ってくれる豚の生姜焼きが食べたくなった。  そして彼女は毎日、どんな気持ちで自分たち家族に食事を作っていたのだろうと、そんな事が頭をよぎった。
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