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「……心配してるかな」
うつむいてつぶやいたスズの言葉に、両サイドで腕を振るうマヌルとブラッドは彼の頭越しに顔を見合わせた。
「あ、いや、あっちでもう、オレの事、ニュースとかになっちゃってるのかな、って」
スズは顔を上げて、ごまかすように笑った。
未成年の失踪事件とはいえ、家出の可能性が高い場合などには、すぐに大きなニュースとして取り上げられない事も多いらしい。
ニュースの特番などで知ったのだが、一か月後にようやく報道され、その後本当に家出人が自ら帰宅したような場合もあった。
自分の場合はどうだろう。
家や学校で特に問題を起こしていたわけではないが、あちらでは事件や事故として扱われているのだろうか。
『受験や友人関係の事で悩んでいたらしい』などと、勝手な憶測で報じられたりするのだろうか。
「……それについては、おそらくはまだ、大丈夫だと思います」
ブラッドがこれは伝えるべきだろうか、という面持ちで言葉を選ぶ。
「伝説なので確かな情報ではないですが、極稀人という、一度あちらへ帰って、またこちらへ戻ってきた存在が伝えられています。
彼の話では、あちらに戻った時、彼が元にいたのと、ほとんど変わらない時間だったそうです。
時代も、場所も、こちらにやってきたのとほぼ同じ所に戻されたと、そう証言した文献が残っているらしいのですが……。
彼の場合は若者の時こちらへ来て、だいぶ年老いてから『最期は自分の故郷で迎えたい』とあちらへ帰ったらしいのですが、自分は老いているのに、村の様子は自分が居た頃と何も変わらず、誰も自分が同じ若者だったと認めてくれなかったらしいのです」
「……その話どこかで聞いたような……。
あれ、でも、逆だっけ?」スズが首を傾げる。
「そのゴクマレビトの名前はウラシマ。
彼も『仙人』だったと言われています」
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