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【第三章:風の狩場とカルマの谷 二十五】
「やっぱり! 『浦島太郎』だ!」
「あちらでも昔話として有名らしいですね。
細部は違って伝えられているようですが」
ブラッドは納得したように頷く。
「つまり、あくまで推測なのですが、こちらとあちらでは時間の流れの速さが違う、もしくは来た時とほとんど同じ瞬間に帰還する仕組みになっているようなのです。
マレビトに、帰るまでの期限が設けられるようになったのは、そのためではないかと思われます。
こちらで長い間過ごすほど、外見的な様相が変わりますから。
特に幼年期から青年期の若い年齢の者ほど、短期間の成長による容姿の変化が顕著であるため、あちらの世界に帰れたとしても同一人物として受け入れられるかが難しくなるのではないかと」
」
そうだとすると、幼少の頃に来たフーカやギンコは、「帰りたい」と思える年齢になった時には、もう遅かったのかもしれない。
スズは無意識に彼らの方を見つめた。
キャンプファイアーの炎の周りで、ギンコたち音楽隊の伴奏に合わせて、仮面をつけたフーカや子ネコたちが輪になって踊っている。
その周りでは大人のネコたちが談笑し、子ネコたちの様子を微笑ましく見守りながら食事を楽しんでいる。
郷全体が一つの家族のようだ。
こんなにも温かく豊かで、平和な暮らしなのだ。
むしろ「帰れない」という事実に安心感を覚えただろうか?
どちらにせよ、彼らはもう完全にこちらの世界の住人だ。
自分だけが、未だにどちらの世界にも属していない、宙ぶらりんな存在なのかもしれない。
そんな焦燥感と寂しさがスズの心の中をよぎった。
それはあちらでもずっと感じていた、説明のできない孤独感と良く似ていた。
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