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「料理はね、命を狩った者の心の負担を、少しでも和らげるために発展したのではないかと、私は思うのだよね」
マヌルがいかにも楽しい、というように生ハムをバラの花の形に整えて言う。
「ただ食べるだけなら、丸焼きだって、生のままだって良いわけだからね。
もちろん、保存や安全性のためでもあるわけだけれど」
バサバサとしたあの衣装に、たすき掛けをした姿でのんびりとおしゃべりをしながら、手だけは、さかさかと良く動く。
調理器具や皿の扱いもスムーズで、とても手慣れた様子だ。
「……偉い人って、料理はしないものかと思ってました」
マレビト、地球の人間で言うのなら、マヌルのような立場の者は、きっと炎の上座に奥方と共にゆったりと座り、最も豪華な食事を楽しんでいるだろう。
マヌルの台所姿は生き生きと楽しげでどこか微笑ましく、スズは表情を和らげた。
「この世に在るもので、偉くない者などいないよ」
マヌルはキョトンとした表情で手を止めた。
「私がこの郷の長をしているのは、たまたま最も魔力の量が多かったからでね。
郷のみんながおらねば、『長』である私もいないからね」
マヌルは濡れた布巾で手をぬぐうと、自らの胸にかかった、車輪型の魔神輪をスズに示した。
「このね、中心の石。例えばこれを神様だと思って欲しいんだがね」
マヌルは金の車輪型の魔神輪の中央のひときわ大きい紫色の石、坤石を肉球で指した。
「そしてね、この緑の石が君だとしよう」
次に坤石を中心に伸びる金の車軸の間にある、八つの石のうちの一つを指した。
「隣の石はギンコやフーカ、ブラッドかもしれない。
みんなそれぞれ長所も短所もあり、個性も違えば、特技も違う。
でもだからこそ、足りない所を補い合えるのだね」
薄い桃色の石、赤い石などを指して言う。
「だがね、見てみなさい。
神様からの距離はどの石もみんな同じなのだよ。
ここにはたった八つの石しかないがね。我々は無数の命を持っておるね。
ネコタミやマレビトだけでなく、鳥や虫に植物や動物、もっと小さな目に見えない生命まで、みんなが手を繋ぎ、一つの円を描いている。
そうして全ての生命の繋がりが綺麗な円を描くから、世界は廻り、進んでゆくのだよ。
輪廻転生だけでなく、この真理を内包するがゆえに、この魔神輪は『生命の環』と呼ばれているのだね」
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