【第三章:風の狩場とカルマの谷 二十五】

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 マヌルは肉球の指で車輪をなぞって一周させた。 「みんな同じく神様の分け御霊だから、みんなが同じだけ尊く、偉い存在なのだよ。  ただ、役目が違うだけでね。  だから、それを忘れれば世界は歪む。  ある種の生命をおとしめたり、滅びさせることは、車輪に穴をあけるのと同じ事なのだよ。  欠けた車輪では、いつか曲がって道から外れてしまう。  そうしていずれは倒れて、どこへも行けなくなってしまうのだがね。  君の来た世界ではね、多くのマレビトがそれを忘れておるようで、それが私には、悲しく、残念に思われるのだよ」  マヌルは自分の魔神輪から手を放し、かわりにスズの右手ごと、腕輪状の彼の魔神輪を両手で包んだ。 「……君たちは明日、出立するんだったね。  君の魔神輪は、そのまま持っていきなさい」 「え……でも、これって凄く貴重な物なんじゃ……」 「この世界、いやこの宇宙に、新しい可能性をもたらしてくれた、君への贈り物だと思って欲しい。我々みんなからのね。  それに、石にも意志があるのだよ。この世界をより良くしたいというね。  だから、君と一緒に行くべきだと、私は思う。そう感じるんだよ」  スズは自分の右手首の魔神輪を見つめた。  その古色蒼然とした力強い輝きから得られる感覚は、風雷石と初めて出会った時に感じた、不思議な繋がりと温かさに良く似ていた。  だが、それは懐かしいというよりも、新しい道へと共に歩き出す、新たな友の激励のように感じられた。 「さあ、料理も充分に揃ったし、我々もそろそろみんなの元へ行こう。  お腹はいっぱいでも、ダンスは楽しめるからね?」  マヌルは満面の笑みで微笑んだ。
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