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マヌルは肉球の指で車輪をなぞって一周させた。
「みんな同じく神様の分け御霊だから、みんなが同じだけ尊く、偉い存在なのだよ。
ただ、役目が違うだけでね。
だから、それを忘れれば世界は歪む。
ある種の生命をおとしめたり、滅びさせることは、車輪に穴をあけるのと同じ事なのだよ。
欠けた車輪では、いつか曲がって道から外れてしまう。
そうしていずれは倒れて、どこへも行けなくなってしまうのだがね。
君の来た世界ではね、多くのマレビトがそれを忘れておるようで、それが私には、悲しく、残念に思われるのだよ」
マヌルは自分の魔神輪から手を放し、かわりにスズの右手ごと、腕輪状の彼の魔神輪を両手で包んだ。
「……君たちは明日、出立するんだったね。
君の魔神輪は、そのまま持っていきなさい」
「え……でも、これって凄く貴重な物なんじゃ……」
「この世界、いやこの宇宙に、新しい可能性をもたらしてくれた、君への贈り物だと思って欲しい。我々みんなからのね。
それに、石にも意志があるのだよ。この世界をより良くしたいというね。
だから、君と一緒に行くべきだと、私は思う。そう感じるんだよ」
スズは自分の右手首の魔神輪を見つめた。
その古色蒼然とした力強い輝きから得られる感覚は、風雷石と初めて出会った時に感じた、不思議な繋がりと温かさに良く似ていた。
だが、それは懐かしいというよりも、新しい道へと共に歩き出す、新たな友の激励のように感じられた。
「さあ、料理も充分に揃ったし、我々もそろそろみんなの元へ行こう。
お腹はいっぱいでも、ダンスは楽しめるからね?」
マヌルは満面の笑みで微笑んだ。
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