【第三章:風の狩場とカルマの谷 二十六】

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【第三章:風の狩場とカルマの谷 二十六】

 翌朝、出立のため、スズを含めシルフのメンバーは全員、マヌルのテント前に集合していた。  テンとマヌル、お互いの代表者による別れの挨拶が済むと、スズはおずおずと、バッグの中からある物を取り出した。 「あの……これ、魔神輪をタダでもらうのもアレかなと思って、風雷石で何かと交換できないかなって、調べてみたらコレで……」  それはスズが地球で着ていた、中学校の体操用ジャージだった。 「何かの間違いかなって思ったんですけど、でもひょっとしたら、料理の時とかに動きやすいのかなって」  我ながらどうかしている、という困惑した面持ではあったが、笑顔で、マヌルに向かって両手で捧げるようにしてそれを進呈した。  マヌルは嬉しそうに、しかし何かに迷いのあるといった表情で、ジャージを受け取り、それをしげしげと見つめた。 「とても光栄なのだがね、私の衣装はその、伝統的な物であってね……」  物珍し気に、濃紺と白の切り替えデザインのジャージを広げて伸ばしてみたり、体に当ててみながら話す。 「良いんじゃないですか。週に一度くらい、休みの日があっても」  ブラッドの言葉だった。  ぶっきらぼうに、だがどこか照れたように恥ずかしげだ。 「いつかあなたの魔力が枯渇して、私が郷に帰って来た時に、きっちり休む癖をつけてくれていないと、立場がなくて困りますから」  マヌルは大きく目を見張り、その隣にいたウルルも、感激したように涙目でマヌルの肩を叩く。 「そうですよ、あなた! 私たちもいるんですもの。  たまには、みんなに任せて、ね」 「そうかね、じゃあ早速ちょっと着てみるからね、ちょっと待っててくれたまえ」  マヌルはジャージを抱え、いそいそとテントの中に消えた。  ますます困惑して「ちょっと意味が解らない」という顔をしているスズに、ブラッドは小さな声でこう言った。 「あの衣装は、武器庫みたいな物なんです。  それに加えて常に郷全体に異常がないか、蜘蛛の巣のように魔力を張り巡らせているんです。  ああ見えて、精神的にも体力的にもかなりの負荷がかかっているはずです」  そういえば狩りの際、ギンコが腰にたくさん付けている尻尾のような毛も、矢になっていた。  マヌルのバサバサモサモサとした服にも全て意味があって、一つ一つの毛束が凄い武器になるのかもしれない。
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