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僕が定年退職した頃、一般人もタイムマシンを使えるようになった。
高校生のときに知り合った妻、チサも同じ年に仕事を辞めた。家族にも恵まれた。退職金も十分にある。僕は自らの余生に何ら不満があるわけではなかった。
ただ、過去にある未練があった。
あれは高校2年のバレンタインデーだ。毎年僕には無縁なイベントだった。だがその年は最悪だった。
告白の失敗。
誰にでもあることだ。それはよくわかっている。だがそもそも恋愛経験そのものが少なかった僕にとって、それはあまりに惨めで、大きすぎた。
既に半世紀も前のことではある。当時のネットスラングで言うところの「コミュ障の黒歴史」として、記憶の扉を閉してしまうのが健全だろう。
ところがこの時代にはタイムマシンが普及してしまった。
誰かが言った。道具は身体の延長だと。
僕の両親が学生の頃、遠くの相手と簡単に話せる道具で遠距離の恋愛は容易くなった。僕は、過去の相手に会いに行ける道具で、 あの子にもう一度告白するのだ。
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