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自宅マンションについたのは、日付が変わる頃だった。
「ただいまぁ!」
玄関のドアを開け、リビングへ向かう真っ暗な廊下に向かって楓太が大きな声をあげる。
「うるさいなぁ。誰もいませんって」
「だってほら、もしかしたら泥棒がいるかもじゃん?だからこうやって大きな声で敢えて言ってやるんだよ。帰ってきたぞ!逃げろよ!って」
「そんなことしなくたってここ24階ですよ?ミッションインポッシブルのトム・クルーズじゃないと侵入は不可能ですよ」
「お、いいツッコミするなぁ、颯」
わしわしと五つ下の相方の頭を撫でる。柔らかい髪が指の間をするすると通り過ぎて行く感触が心地いい。
「やめてくださいよ」
「恥ずかしがんなって」
ふざけて後ろから羽交い締めにする。三十路に入ったとはいえ、昔から変わらず颯は華奢でしなやかな体躯をしている。
「やめろって!」
無理やり身体を引きはがされ、その勢いで壁にぶつかりドン、という重い音がした。
「いって!何すんだよ!」
「それはこっちのセリフですよ!」
灯りをつけて、ずんずん廊下を歩いていく颯の耳たぶが真っ赤に染まっているのを見て「まだまだ子供だな」と楓太は鼻で笑った。
「颯は初心だなぁ」
後ろから追いかけながらからかうと、ふいに手で進路を塞がれた。
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