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「どうぞ」 颯が声を掛けると、スーツ姿の冴えない中年の男が顔を出した。 「すみません、お疲れ様です。あのーうちの新人タレントの、小坂からご挨拶よろしいでしょうか」 「え、あぁ、どうぞ」 ―収録前にも挨拶来てなかったっけ。 一瞬不思議にも思ったが、新人タレントが気色悪いほどの満面の笑みで室内に入ってきた。 「すみませーん、収録お疲れ様でしたぁ。私、新人タレントの小坂ゆうみって言いますー。あのぉ、これ差し入れなんですけどぉ、よかったらお2人でどうぞぉ」 そう言って、白い紙袋を差し出した。楓太がそれを受取ろうとすると、横から颯が割って入ってきて紙袋を受け取った。 「どうも、ご丁寧にありがとうございます」 「これからもよろしくおねがいしまーす」 「こちらこそ」 紙袋を受取ろうとした手が結局手持ち無沙汰になったので、その手をお尻のあたりで拭きながら楓太はぎこちなく会釈した。 般若のようにぐっしゃりと下がった目尻で、会釈したままバックして小坂ゆうみは部屋から出て行った。その姿があまりにも滑稽だったので、ドアが閉まった途端、楓太は思わず吹き出してしまった。
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