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そうしているうちに、大きな公園にたどり着いた。彼女の迷いのない足取りを見るに、もしかしたら彼女は、一度この町に来たことがあるのかもしれない。
レンガ道と芝生と池、そしてところどころに木が生えている、広々とした公園。その全てが雪に覆われていた。
平日の昼間に――それもわざわざ雪が積もっているところに来る人は少ないようだった。遠くに一人二人の影があるだけで、公園内はとても静かだ。
「いいところでしょ」
「来たことあるの?」
「精霊のおかげでね」
彼女は新雪に跡をつけた。私もそのブーツをたどる。足跡は同じくらいの大きさだ。そしてその足跡を見て初めて、彼女が現実にいるんだと実感できたような気がする。
「キレイね」
「……そうだね」
しばらくそこで、ただ息をしていた。
池に張った氷を覗きこんでみたけど、動くものは何も見つけられなかった。周囲を見渡しても、寒々しい落葉樹しかない。ベンチも白くなっていて、わざわざ座る気にはなれなかった。
やけに寒い。そう思った時、何かがふわりと横切った。
「雪ね」
と彼女が言って、隣で上を見ていた。手のひらを出してみると、手袋の上に小さな雪が一粒載った。
彼女はコートのボタンをはずした。もう一度中の制服が見える。
「……あ、それって……」
思わず声が出る。電車の中で見た時は、なんだか見覚えがあると思っていたけど、それも当たり前だ。
「それ、私と同じ学校の……」
「そうよ」
コートの前身ごろを持って、広げてみせた。私もコートの下に着ている、紺色のセーラー服と確かに同じものだった。でも、
「まだ、だけどね」
こんな生徒が入学、もしくは転入していたなら、もっと話題になっていたはずだ。おそらく、次の一年生――この少女は中学三年生で、受験が終わったばかりなのだろう。きっと受験勉強の反動で、精霊が見えるとか思いこんでいるのかもしれない。
「ねえ、マリ」
いつの間にか、あだ名になっている。いつも友達に呼ばれてるのと同じものだから、違和感はないけど。
「いいじゃない。もう友達でしょ」
彼女はまたしても、私の心を読んだかのように笑った。
「……友達になった覚えはないんだけど」
そういえば私も、いつの間にか敬語じゃなくなっていた。
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