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彼女は、腰の革ポーチから小さな瓶を取り出し、
「これに、雪を入れるの」
私へ見せた。コルク栓がしてある……理科室にあるような、試験管みたいな瓶だ。
「……私が?」
「私も」
もう一つ同じ小瓶を手に、コートを閉めた。
「新しい雪を好むの」
「……精霊が?」
「そう、精霊が」
彼女が栓を開けると、ほどなくして、ゆっくりと雪が降ってくる。ひらひらと舞う雪を追いかけて危なっかしく動いた後、黙って見ていた私の所に戻ってきた。
「どう?」
瓶を突き出してくる。確かに、小さな雪が入っている。
「どうって言われても……」
「……いないみたいね。もう一度、マリも」
仕方なく、コルクを外す。
「捕まえたら、すぐに蓋をするのよ」
気をつけてはいたものの、やっぱり私は、流されやすい。
そのことを自覚したのは、中学一年生――明確な校則に従わざるを得なくなったときからだ。別にそれ自体は良かった。そのころの私は、校則は絶対だと思っていたし。
「私は池の向こう。マリはこっち側」
曖昧に頷くと、彼女は池に架かった橋を颯爽と渡っていった。
小学校から付き合いのあった友人の提案だった。最初は、ちょっとしたことだった。廊下を走ってみようだとか、掃除中におしゃべりしようだとか。でも、その内容は次第に大きくなっていった。
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