雪の降る町

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 夏。四限目の、体育の時間だった。友人が、いつもの調子で言った。「ずる休みしよう」と。暑くてだるいから、とかが理由だったと思う。私たちは、先生に体調が悪いと訴え、保健室のひんやりとしたベッドに横になった。先生が席を外した隙に、内緒話もした。  瓶に、何粒か勝手に雪が入っていた。大粒の雪が上のほうから降ってくるのが見えたので、気まぐれに瓶で追いかける。  そのとき、ぼんやりと思った。私って、自分で何かを決めたことがあるんだろうか、と。小学校のころも、中学校のことも、今も。隣にいる誰かに、なあなあに従っているだけなんじゃないかって。  上手く瓶に入ると、なんとなくうれしい気持ちになった。ゲームみたいで、案外楽しい。栓をすると、背後から速足の音が聞こえてきた。私のことを見ていたんだろうか。 「捕まえたのね」  雪入りの瓶を渡す。  少女は、しばらく無言でそれを見つめていた。やけに真剣な目だった。 「すごい、マリ。精霊がいるわ」  見える? と、小瓶を目の前に突き出してきた。彼女は満面の笑みを浮かべていた。子供が誕生日プレゼントを受け取ったときみたいに。 「いやだから見え……いないって、そんなの」  否定して、彼女の表情を見ようとした。 「そんなことないわ」  しかし彼女は後ろを向いて、瓶をしまっているところだった。  それからしばらく、私と彼女は空を見上げていた。  遠くのビル風が雪を舞い上がらせると、どうやら空の気まぐれだったようで、細々とした雪に変わっていた。
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