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帰りの電車
ガタンゴトンと揺れる電車の中、彼女と私は無言だった。雪の影響で一時間ほど遅延した、帰りの電車だ。雪の降った公園ではあんなに楽しそうだったのに、今の彼女は別人のように静かだった。
そして、行きのときと同じく、憂い気な顔をしていた。
ぐぅーっと、おなかの音が響いた。私のだ。そういえば今日は、彼女に振り回されていたおかげで、朝ごはん以外口にしてない。
「これ」
見計らったように、隣から華奢な拳が伸びてきた。手のひらを出すと、コロンと飴が落ちてきた。彼女を見ると、同じ包装紙をスカートのポケットに突っこんでいるところだった。それから、かすかな甘い匂い。
私も、飴玉を口内に放りこんだ。イチゴの香りが鼻に抜ける。コロコロと味を楽しみながら、車窓の雪景色を眺めた。きっともう、来ることはないだろうから。
どことなく生ぬるい空気が辺りに満ちて、気を抜くとまどろんでしまいそうな中、突然、彼女は話し始めた。
「私、この町に――この国に、越してきたの」
「……見た目で判断するなとか言ってたのは、どこの誰よ」
「おばあさんの提案でね、転校することにしたの」
なんだか、彼女の独特なペースに、すっかり慣れてきてしまった。そんな心配をよそに、
「違う国なら、しがらみなくやっていけるんじゃないかって」
そして、この国の言葉もおばあさんに教えてもらったの、とも言った。なぜ言葉が通じるのか理解できた。いや、通じてない気もするけど。
「しがらみって、何?」
「いろいろ」
ゴゥ……っと音がして、来るときも通った長いトンネルに入った。
彼女は、そのことについてそれ以上何も言わなかったけど、なんとなくなら推測できる。彼女の性格が元からこうなんだとしたら、いろいろとうまくいかないのは当たり前だろう。私のように、彼女のフワフワとした言動に振り回される異国の人が、容易に想像できた。
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