帰りの電車

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 今回はトンネル内でも話をするつもりらしく、 「そして、マリに出会えた」  と続けた。 「……私に?」  彼女と目が合う。出会った時と同じキレイな翠は、天井の明かりをキラキラと反射していて、宝石みたいだと思った。それも、触れれば崩れてしまいそうな、脆い宝石。 「マリのこと、ずっと見てた」 「何それ……」 「ずっとよ。マリを見たときから、ずっと」 「……?」  またよくわからないことを言い始めた。 「マリに出会うために、この国に来たのよ」 「……運命だ、とか言うの?」 「もしくは、精霊のおかげ」  本当に一つ下とは思えない横顔。やけに大人っぽい顔立ちなのは、人種が違うからとかなんだろうか。私はたまに、年齢より幼く見られるから、少しうらやましい。 「ずっと、精霊を探しているの」  また精霊の話だ。これさえなければ、もう少し近よりたいと思えるのに。 「ずっとよ。あのときから、ずっと」  初めて見えた時、だろうか。具体的にいつごろなのかは、わからないけど。きっと幼稚園の時とか…… 「違うわ」  また私の心を読んだ彼女は、きっぱりと否定した。珍しい――いや、もしかしたら初めてかもしれない。 「違うわ。あのときからよ。それまでは、ずっと見えていたもの」 「あの時って――」 「――あのときは、あのときよ」  彼女の言う『あの時』が何なのか、私にはわからない。でも、彼女の瞳は遠くの過去を見ていた。嫌な思い出が浮かんできてしまったときのように、少し険しい顔をしながら。もしかしたら、さっき言っていたしがらみとやらと、関係がある話なのかもしれない。 「ねえ、マリ。精霊っていると思う?」  行きの電車でも、同じことを訊かれた気がする。あの時はなんて答えたんだっけ……。なんか思い出したくもない。 「……ベラルが、いるって言ったんじゃない」 「……そう」  どこか弱々しい声だ。 「何、急に冷めちゃったの?」 「そうね、精霊はいるわ」 「……?」  そこからまた、長い沈黙があった。相変わらずおなかはすいていたし、何度かおなかの音も鳴ったけど、幸い彼女には聞こえなかったらしかった。  そして、私が座る位置を直していた時、唐突に彼女は口を開いた。
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