冬の朝

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 急いで改札を抜けた瞬間、誰かが私を呼んだ。鈴を転がすような甘い声だった。  驚いて振り向くと、見慣れない少女が立っていた。 「なん、ですか……?」 「よかった」  大きなダッフルコートをきっちりと閉めた少女は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。 「ねえ、マーリ」  私の名前を、妙になれなれしく呼ぶ。 「一緒に行かない?」  手を差し出す少女の言うことを理解できないでいるうちに、いつの間にかホームに着いていた電車が、発車のベルを鳴らした。  しまった、と振り返った先で電車は加速していき、リズミカルな騒音は徐々に薄れていった。 「学校、遅れちゃうね」  くつくつと笑い、髪を揺らしたことで、この少女が見慣れない金色の髪をしていることに気づいた。  私は少女をキッっと睨みつけ、 「一応言っておくけど、あなたのせいだから」 「ギリギリかもしれないわ」 「……私を遅刻させるのが、あなたの目的なわけ?」 「そうとも言える」  フワフワとして、要領を得ない受け答えだ。少しでも少女の考えを読もうと瞳を覗きこむと、初めて見る翠瞳が覗き返してきた。とても澄んでいるのに、底が見えない。 「私をどうしたいわけ? 本当にそれだけなら、私もう行くんだけど」  このままだと、いつものように流されてしまう。すでに少女のペースな気もするけど。 「マーリに、お願いがあるの」  ――お願い……?  私の思考が、その『お願い』とかいう正体不明のものに引っかかった隙に、彼女は改札にパスを通し、 「来て」  私の手を引っ張って、都合よく来た反対向きの電車に乗りこんだ。
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