0人が本棚に入れています
本棚に追加
行きの電車
ガタンゴトンと揺れる中、彼女は無言だった。駅ではやけに楽しそうに受け答えをしていたのに、急に別人にでもなったかのようだ。
そして、その整った憂い気な顔に、私は声をかけるにかけられないでいた。
「――セイレイって、いると思う?」
「……セイレイ……?」
線路をなぞる音の合間に、唐突な質問。
何を言っているんだろうか。その四つの音に当てはまる単語といえば……。
「政令指定都市……?」
「精霊よ。草花とか水とかにいる、精霊」
……まあ、今のは、私なりのボケだ。ずっと真剣な顔でいられるのは、なんだか居心地が悪かったから。結果は言わないでおくけど。
「……よくわからないんだけど」
「そのままの意味よ」
……それがわからないから訊いたのに。
このままでは何も進まなそうなので、適当に合わせてみる。
「いるわけないでしょ、あんなの。おとぎ話とか、創作の中の存在よ」
そう言って、ちらりと横に座る少女に目をやると、立ち上がった瞬間だった。走行中にわざわざ立つなんて、何を考えているんだか。
「そう……。私は――」
私の前でくるりと回って、
「――私は、いると思うわ」
いつの間にか開けたコートの前面からセーラー服を覗かせた。
最初のコメントを投稿しよう!