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「で、ベラルさん」
「ベラル、でいいわ」
再び顔が近づいてくる。
「ベラルさ――」
「――ベラル」
横目に盗み見ると、彼女はじっと私を見つめていた。まるで試すかのような微笑を浮かべながら。
「……ベラル……は……」
「なあに?」
満足そうな顔をして、彼女は体を起こした。気をつけていたはずなのに、またしても彼女に流されてしまった。
「一体、何がしたいわけ? 私をどうしようって言うの?」
その問いに、考えこむようなそぶりを見せる。そして、
「駅で話したはずよ。一緒に来てって」
「……いや、それはそう聞いたけど。それが理解できてれば、わざわざ訊かないっての……」
「そう」
車内放送が、停車駅が近いことを知らせた。
「……それから、どうして私の名前を知ってたの?」
「それは簡単よ」
彼女は反対側の窓に向かった。それから、視線を窓から移さず、
「精霊に訊いたの」
再び、理解不能なことを言った。
さっきから精霊精霊って、もしかしたら彼女は、中二病ってやつなのかもしれない。顔や背格好から見るに、歳は同じくらいか、上だと思ってたけど。
「もしかして、精霊は本当にいるとか信じてるの?」
「ええ」
彼女は振り向いた。強いまなざしをしていた。少し睨んでいるようにも見えるくらいに。
「精霊は、いるわ」
今までとは違う、どこかひんやりとした重みのある声だった。その言葉に、私は座席に縫いつけられ、動けずにいた。
そのうちに、電車がホームに着いて、扉が開いて、隣の車両で人が乗り降りする気配がして、発車ベルが鳴って、扉が閉まった。
乾いてしまった喉を唾で潤してから、
「……本気で、言ってるの?」
「嘘は嫌いよ」
ゆっくりと息を吐いて、揺れだした座席にもたれかった。
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