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どうやらこの少女は、本気で言っているらしい。精霊がいると。よほど嘘が上手くなければ。
「どうして……」
私だって、昔は信じていた。幼いころは、何か超自然的な力があって、目に見えないものが辺りにいるのだと、信じていた。
「どうして、信じているの……?」
でも、それは昔のことだ。成長していくうちに、日常を過ごすうちに――自然と気づくものだ。
精霊なんていないし、セカイは平凡で凡庸だと。物語の中か、まどろみの中か――あるいは気のせい――にしか、魔法や奇跡は存在しないのだと。
少女は幼い子供のような顔をしていた。
「決まってるわ。私、精霊と話したことがあるもの」
「いつ?」
「昔よ」
向かいの座席に座った彼女は、どこか遠くを見ていた。
「おばあさんがね、教えてくれたの」
「そんなの、ただの子供だましだよ」
彼女はその透明な瞳のまま、目を合わせずに答える。
「教えてもらう前から見えていたわ。いろいろな精霊がね。それが正しいことだって、おばあさんは教えてくれたの」
嘘だ。
そう思ったことを見透かしたように、
「言ったでしょ。嘘は嫌いなの」
と、彼女は言った。
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