行きの電車

5/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 私には、どうしても信じられなかった。十七年間生きてきて、精霊がいるだとか思ったことは、ある。けれど、それは忘れ去られ、二度と浮かんでこない感覚だ。  もっと子供が言うなら、笑って合わせられる。もしくは、友達が冗談で言っているなら、ツッコミでも入れられる。けれど、そうではなく…… 「あな……ベラルは、何歳なの?」 「十六くらいね」  一つ下だった。それでも、中学三年生か、もしくは同じ高校生だ。 「……わからない……。どうして、そこまで信じられるの……?」 「この目で姿を見て、この耳で声を聞いたからよ。確かに精霊は存在していたわ」  前髪から覗く二つの翠光が、嘘ではないことを知らせている。その直感を、かぶりと共に振り払った。 「思い違い、もしくは記憶違いよ、きっと……」  頭が痛くなってきた。精霊がいるとかいないとか、そんなことを考えたのは、いつぶりだろうか。  轟音と共に、トンネルに入った。騒音が耳を塞ぎ、それ以上の会話はなかった。  長い長いトンネルの間、少女はずっと私を見ていた。耐え切れなかった私は、途中からほかのことを考えていた。けれど、彼女の言葉や瞳や動作は、私の頭から離れてはくれなかった。頭の中で、彼女の純粋そうな声が――あの甘い鈴の音が、何度も鳴っていた。  そのうち、疲れてぼーっとしていると、ふいに彼女が隣にきていて、耳元でささやいた。私は深く考えず、彼女に従った。窓の自分に目をやると、トンネルを抜け、銀世界が広がった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!