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雪の降る町
結局、少女の目的地らしき場所までついてきてしまった。駅の天井に吊り下げられた時計は、お昼過ぎを指していた。念のため取り出した携帯端末は、その一分先。どちらがずれているのか、私にはまだわからなかった。
「ほら、見て」
彼女が駅舎の扉を開けると、冷たい風が吹きこんできた。私も一歩踏み出して、白い息を吐く。空はどんよりと雲が垂れこみ、今にも降り出しそうだった。
道は丁寧に除雪されたばかりに見える。
「冷たくて、気持ちいいわ。マーリもどう?」
彼女は、道脇に膝辺りまで積まれた雪の山に手を突っこんで、うれしそうに笑っている。そういえば、手袋をしていない。マフラーも。彼女から漂う非日常感は、それが原因なのかもしれない。背景が白いと、それがより一層目立つ。
私は首を振った。雪は久しぶりだけど、わざわざ冷たい思いはしたくない。それに、これ以上彼女に流されるわけにはいかない。
「前に住んでいた所も、毎年雪が降っていたのよ」
幼いころから変わっていなさそうな笑顔に、思わず苦笑を洩らしてしまった。
「……で、こんなところに、何の用があるの?」
「精霊よ。精霊を、探すの」
少女は白い手を払って、まっすぐ延びる道を歩き出した。
確か、さっき見た時刻表は、しばらく電車がないことを告げていた。勝手に帰ることもできそうにない。
温かい駅舎内で彼女を待っているほうが良かったけど、どうせまた無理やり連れていかれそうな気がする。
仕方なく鞄を肩にかけなおし、代わりに溜息を残して背中を追った。
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