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カスミはできあがったふたつの墓を見下ろした。
「あと、は」
きょろきょろと辺りを見渡すと、近くの花壇から花を摘む。
きれいに整えられた花壇の花を失敬するのは良心が痛んだが、もうこの花壇を手入れする人間も、見て楽しむ人間もいない。
摘んだ花を簡単に花束にすると、墓に供えた。
「ハーキース」
その名を口にすると、涙がまたこぼれ落ちる。
墓の前にしゃがみ込むと、カスミは彼と最後の話をした。
「じゃあね、ハーキース」
涙を拭って、立ち上がる。
こうしてカスミは研究所をあとにした。
二年前、カスミは失踪したヴァレット博士の行方を捜していた。
ようやくたどり着いたのは山奥に隠れるようにひっそりと建つ、研究所。
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