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「結婚することに、なりまして」
1番仲良くしている後輩の瀬尾から、そう報告を受けたのは1年で一番忙しい時期のことだった。
喫煙所でその言葉を聞いた時、愕然としたのは自分が31歳、こいつが27歳ということ。
「まじか」
「まじです」
「まだ27だろ?はやくね?いいの?」
「桜井パイセンもはやく1人に決めた方がいーっすよ」
「余計なお世話だわ」
タバコの火を揉み消しながら、明るく言って背中を叩く。
「ま、おめでとー。頑張れよ」
「で、ここからがご相談なんですが」
「なんだよ、金ならないからな」
「新婚旅行に行きたいんですわ」
「……おまえ、」
この忙しい時期に、という言葉を飲み込み、わかった、と呟く。
「お前の分まで働いてやるよ!」
「桜井さん愛してる!」
「はいはい。一生に一度だもんな。
楽しんでこいよ。海外だろ?」
「グアムに行こうかと。」
「へー、いーじゃん。」
「桜井さんのときは俺がその分仕事するんで!」
「はは、頼むわー」
頼むわ、と言ったはいいけど。
俺は多分一生結婚なんて、出来ないと思う。
願望は無いわけじゃないし、老後を思えば1人は寂しいだろうとも思うけど。
飽き性な俺は、たった1人と一生一緒にいるなんて、想像もつかなかった。
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