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「......なんか怒ってんの?」
一心不乱に蕎麦をすする私に、
桜井さんが尋ねてくるので、
「桜井さんのカノジョは大変だなあと思って」
とさらりと答えた。
「それこっちのセリフだから。
お前の彼氏、まじで大変だから、色んな意味で!」
じゃあさっきの綺麗なお姉さんと付き合えばいーじゃん、と心の中で呟く。
「いつあの制限は解除されるんですかねぇ......」
桜井さんがため息混じりに言うので、
私はとりあえず笑って誤魔化しておく。
「アカリちゃーん」
「アカリさーん」
ねえねえ、とぶりっこする桜井さんに、
冷たい視線を投げつける。
「くそー、なんだよ~」
「桜井さんの女の趣味が悪すぎるよ。
何で私なのか全然わからない。」
「だってアカリ、可愛いもん」
桜井さんは恥ずかしげもなく、堂々と言う。
こっちが恥ずかしくなって目を逸らす。
「俺は、誰もやらないこと、
進んで引き受けてて、
それでもニコニコ笑ってるアカリが、本当に可愛いと思う。
キラキラ見た目だけ着飾ってる女より、
頑張ってる女の方が俺はすき」
こんなにストレートに好きだと言われたことが今までない。
自慢じゃないが、モテたことなど人生で一度もないのだ。
「だからはやく俺のこと好きになってよ。」
「......善処します」
ごちそうさまでしたー、とお店の人に声をかけ、
お会計を払って店の暖簾をくぐった瞬間、
ぐいっと腕を掴まれて、そのままくちびるを押し付けられた。
「......っ!」
「ざまあ」
桜井さんはにやり、と笑って、
私のしっかりセットした髪を、ぐしゃぐしゃとかきまわした。
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