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「提案書、書いてて……」 「終電、もう無いだろ?」 「無いけど……終わらないから」 そう答えると桜井さんはバカと言って、 そのまま、私を抱きかかえたまま、左右に揺れた。 「この提案書より、お前の睡眠の方が大事だっつの」 「……そんなこと思うの、桜井さんだけだから。 明日のコンペに、年間億単位が、かかってるんで」 「どーでもいー。てか営業担当誰だよ? 何でお前だけ残して帰ってんの?」 「野原さんだよ。 何も言わずによろしくお願いしまーす、で帰っちゃった」 ようやく腕が解かれた。 あいつの上長誰だっけ、とスマホをいじりながら、チクろうとする桜井さんを必死で止める。 「ほらじゃあ俺が手伝ってやるから。 作業振れよ」 「……やだ」 「やだ!?」 「これは私の仕事だし、私の提案書ですから。 最後まできちんとやりきりたい。」 そう言いのけると、 桜井さんは、了解、とあっさりと諦めて、 椅子を何個か繋げて寝床を作り始めた。 「終わったら起こして。送ってくわ」 「こんなとこで寝たら風邪引く……!」 「こんなとこで一人でいたら精神病むわ」 桜井さんは、早く終わらせろよ、といい、目を閉じた。 静かなフロアにカタカタと私のキーボードの音だけが響く。 何故か1人じゃないと思うと落ちついて、 さっきよりサクサクと作業が進んだ。 あと少し、もう少し。 稼働しすぎてフラフラになった頭を振り切り、ようやく資料が完成した。
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