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翌朝、桜井さんの家から出勤し、
コンペで話す内容の整理をして、ロープレを行う。
本当は営業の野原さんとともに練習するはずだったのだが、連絡がとれなかった。
遅刻だろうか?と少し不安に思う。
その不安は的中し、午前中、一切連絡がとれない状態になってしまった。
焦って野原さんの上長に連絡をすると、
課長も連絡がとれないという。
「誰か代打、立ててもらえませんか?
スピーカーは私やるんで。
営業がいない体制なんて、捨てコンペにもほどがあります」
そう懇願したものの、ちょうどその課のスケジュールは誰もあいていなかった。
徹夜で作った提案書を握りしめて、
私は悔しくて涙が出そうだった。
私の努力とは別の方向でマイナス評価となることが、たまらなく悔しい。
完璧な状態で挑みたかったのに。
本当に涙がこぼれそうになって、
私はあわてて化粧室へと向かう。
その途中に、アカリ、と呼び止められた。
「アカリ、どうした?」
桜井さんは目を見開いて、私を見る。
まだ、泣いてない。ぎりぎりのところで、泣いてない。
ポーカーフェイスを貫いて来た。
いつもニコニコ笑っていられた。
でも、桜井さんは気づくのだ。
すれ違ったとき一瞬みた私の表情だけで、何かあったことを。
私の口から、桜井さん、と嗚咽のような声が漏れた。
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