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「何があった?」
「営業の野原さんが、無断欠勤で……連絡とれなくて、コンペが……」
涙をこらえながら言うと、
桜井さんは、真面目な顔になる。
「14時からなんです。あと、30分しかないのに、営業と連絡がとれないんです」
桜井さんは少し考え込んだ後、
調整するから待って、と言った。
スマホをとりだし、すぐさま電話をかけ始めた。
「瀬尾?お前、今日14から17外出ある?
15時からあいてる?了解。
15時から、A社の往訪、俺の代わりに行ける?
うん。緊急でトラブルでさ。」
「お世話になっております、桜井でございますが、本日の定例会を30分後ろ倒しさせていただくこと可能でしょうか?はい、申し訳ございません。」
あまりの速さに私がポカンとしているうちに、
桜井さんは自分の2つのアポをサクサクと交渉してずらしてしまった。
「俺が行くから。コンペ。
泣いてる暇あったら、早く俺のPCアドレスにパワポ送って。
何ページまで俺が喋るかもメールに書いといて。」
「は、はい、わかりました……っ」
「何時出発だっけ?」
「30分後です!」
「ふん、よゆー」
桜井さんはニヤリと笑って、早く戻れよ、と私を促した。
30分後、会社の通用口に、私とクリエイティブチームのメンバーが待っていると、
桜井さんはキメキメの髪と、スーツ姿で現れた。
「よし、行きましょっか」
クリエイティブの椎名さんが、
あれ、2人ってそういえば……と言葉を濁してくる。
「そうなんすよ、椎名さん。
この子、俺のカノジョなの」
桜井さんはケロっとした顔で言い、
私の背中をばしんとたたいた。
「営業がばっくれたって聞いたからほんと心配だったんですけど、よかったー」
椎名さんは胸を押さえて大げさに笑ってみせる。
「いや、別にカノジョでなかろうと、
後輩だったらこうしてますけどね」
桜井さんはさも当たり前のように言った。
俺公私混同しませんから、と続ける。
「……夜中まで頑張ってたの、知ってたから。
これって十分公私混同っすかね、はは!」
豪快に笑う桜井さんにこっちが恥ずかしくなる。
椎名さんはニヤニヤしながら、私によかったね、と言った。
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