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初対面のお客様と名刺交換をし、
「野原がインフルエンザにかかりまして。
野原の上長として代理で参りました。」
と桜井さんはさらりと説明をした。
資料を読む時間なんてほぼ無かったはずなのに、
桜井さんはまるで自分が作った資料かのように軽やかに喋っていく。
その圧倒的な実力を目の当たりにして、
桜井さんは本当にすごい人だと改めて実感した。
「こちらの詳細は、向野から、ご説明をさせていただきます。」
桜井さんはそういって私に柔らかく微笑みかけた。
「はい、24ページ目からご説明をさせていただきます」
私は緊張しながらも、朝練習した通りには話すことが出来ていたと思う。
コンペが終わり、桜井さんがおつかれさま、と私の肩を叩いてくれた。
「桜井さん、本当にありがとうございました!」
そういって深々と頭を下げる。
桜井さんが居なかったら、きっと私の努力は水の泡だった。
「惚れ直した?」
桜井さんはニヤリと笑って私の顔を覗き込む。
私は思わず、ぷっ、と吹き出していた。
「椎名さんもありがとうございました!
おつかれさまでした。
結果出たら飲みにでも行きましょう。
では、俺、次のアポあるんで行きますね。」
桜井さんは、近くのタクシーを止めて乗り込んで行った。
30分後ろ倒してくれた定例会に行くのだろう。
タクシーを見送りながら、私の彼氏は本当にすごい人だと思う。
「公私ともに、本当にいい人だね。
いい彼氏、見つけたじゃん」
椎名さんにしみじみ言われて、私は照れながら、はい、と頷いた。
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