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「ごめんごめん~」 桜井さんが電話を切って、スマホを机上に置いた。 「全然!そういえばY社まだ担当されてるんですね、若林、私の課になるんですけど、仕事ぶりどうですか?」 私はわざと話をずらした。 今、彼女との話を聞いたら、どういう顔をしていいか分からなくなると思ったから。 瀬尾さんにも気まずい思いをさせて、迷惑をかけるのは避けたかった。 「若林いいよー、ガッツあるし!」 「へー楽しみだなー」 「てか、向野ちゃんが課長!? そんな時代かー」 「はやいなあ、あんなひよっこだったのに」 桜井さんが頬杖をついて、私に笑いかける。 親戚のおじさんみたい、と言うと、しゃれにならない年なんだから、と諌められた。 残酷なほど月日の流れは早かった。 変わったのは私たちの関係だけではない。 私も、桜井さんも、それぞれ変わっている。 ああ、そんな、優しい顔。 彼女以外にも出来るようになったんだ。 彼女はどんな人なのだろう、生まれた疑問は、 チクリと胸をさして、消えていった。 どんな人でも傷つくことがわかっていたから、 口に出すことが怖かった。
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