利己主義者

1/32
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ

利己主義者

 人間というものは、常々個人の特異性を求める生き物である。  教室の窓から吹き込む、暖かな五月の風を受けながら、僕、新堂孝之はそんなことを考えていた。  例えば先月、入学式の後に行われたクラス内での自己紹介のときだ。一人当たり一分程度の時間をもらった一年A組の面々は、それぞれ与えられた時間で精一杯の特異性をアピールしてきた。砕けた挨拶をして、他の人よりお調子者である特異性を示したり、当たりどころのない無難な自己紹介で、他の人より他人に興味がない特異性を示したり、様々な方法で個人の持つ特異性を披露してきた。  僕たち人間、特にちょうど高校一年生くらいの思春期の少年少女は、その特異性によって「自分は特別な人間なのだ。君たちのような有象無象と違い、この持って生まれた特異性を役立てるために存在するのだ」という存在意義を確認する。  こう言うと、なんだか人間そのものを非難しているみたいに聞こえるかもしれない。しかし、それを悪だとか善だとか区別するのはおこがましいことで、僕たちはその、人の影に隠れた特異性と折り合いをつけて生きていくのだ。     
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!