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…ここまでの憤怒に身を焦がさずとも良かったろうに…。
そんなことを思いながら、気づいた時には、龍田は駆け出していた。
それは、つまり、八当たりである。
右腕を失ったことは、認めることも悔しい事実。その事実を突き付けられて、己が内に静かに燃えていた自身への怒りが、ふと、湧いて溢れた。
路地裏で遭遇した強姦の場面に…。
意図せず、龍田が抱いていた怒りは憤怒と化し、眼の前の無粋な強姦魔達に向いていたのである。
…八当たり。
龍田は怒りを込めて走った。
静かに、けれど力を込めて地面を蹴りつけて走った。
いつの間にか、右腕の痛みも引いており…。
その時の龍田は、愚直なまでに前以外の方向を見失っていた。
「誰だッ、てめぇッ!!」と、侍の一人が龍田に気づく。
けれど、龍田は止まらず…。
疾走で蓄えた勢いを込めて、左の手で素早く刀を引き抜いた。
斬ろうとしたのではない。
龍田は刀の柄を正面に、真っ直ぐに、まるで打ち出された弾丸のように引き抜いて、勢いに乗る柄の先端を、躊躇なく馬乗りになっていたほうの侍へとぶつけた。それは、腰の回転も入れた打ち出しだったので、刀の柄は本当に弾丸のような速度で飛んだ。
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