壱 月に少女

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 …ここまでの憤怒に身を焦がさずとも良かったろうに…。  そんなことを思いながら、気づいた時には、龍田は駆け出していた。  それは、つまり、八当たりである。  右腕を失ったことは、認めることも悔しい事実。その事実を突き付けられて、己が内に静かに燃えていた自身への怒りが、ふと、湧いて溢れた。  路地裏で遭遇した強姦の場面に…。  意図せず、龍田が抱いていた怒りは憤怒と化し、眼の前の無粋な強姦魔達に向いていたのである。  …八当たり。  龍田は怒りを込めて走った。  静かに、けれど力を込めて地面を蹴りつけて走った。  いつの間にか、右腕の痛みも引いており…。  その時の龍田は、愚直なまでに前以外の方向を見失っていた。 「誰だッ、てめぇッ!!」と、侍の一人が龍田に気づく。  けれど、龍田は止まらず…。  疾走で蓄えた勢いを込めて、左の手で素早く刀を引き抜いた。  斬ろうとしたのではない。  龍田は刀の柄を正面に、真っ直ぐに、まるで打ち出された弾丸のように引き抜いて、勢いに乗る柄の先端を、躊躇なく馬乗りになっていたほうの侍へとぶつけた。それは、腰の回転も入れた打ち出しだったので、刀の柄は本当に弾丸のような速度で飛んだ。     
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