壱 月に少女

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 気合いに乗せて、侍が剣を振り下ろす。  切っ先が、龍田の脳天を狙っている。  龍田は静かに…。  ・・・・・・・・・・・・。  次の瞬間…。  ガランと音がした。  侍の持つ刀が地に落ちる音だ。  侍の手は力を失って、ダラリと、下に垂れさがっている。  その目は景色を映してはいない。  侍は虚ろな瞳をして、大口を開けたまま涎を垂れ流して、まるで餌を求める鯉のように口をパクパクとさせている。  呼吸が止まっているが故の、苦悶の表情である。  …無理もない。  間合いを詰めた龍田の左拳が、深々と、侍の鳩尾に突き刺さっていた。  剣が振り下ろされるより速く地面を蹴り、刃が身体に届くよりも速く拳を鳩尾に叩きこんだ。  先端だけを岩のように硬くして、全身をしなやかに振りぬいて叩きこんだ、怒りの拳である。  受けた侍は、意識を混濁させながら、地面に倒れ込んだ。  そして…。 「藩主護衛役役頭・阪崎龍田だッ。」  戦いを終えた龍田は、倒れた二人の侍を見下ろしながら、叫ぶように己の役職と名前を告げた。  八当たりは多少の効果を発揮したようで、怒りは最初に比べて緩和された。収まったわけではないが、それでも、だいぶ落ち着いていた。  ふと、横目で少女を見る。     
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