壱 月に少女

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 龍田は説明に困窮しながらそう言って、背中の少女をそっと下ろした。  脩介は素早い動作で立ち上がると、下ろされた少女を、優しく抱え支えた。  少女を下ろした龍田は、「ふぅ」などと溜息を吐きながら、正に、漸く肩の荷が下りたという開放感に左肩を回している。 「承知しました。」と、脩介は主人の命に応じた。  脩介とは、中々抜け目のない男で、それ故に、御家人としては良く良く仕事が出来る。応じながらも、その目は少女を観察していた。  すぐさま、少女の様態を診断しているのである。  見れば…。  少女に外傷はない。肌色や呼吸、脈に乱れはなく…。  それはただ、深く眠っているといった様子に見て取れた。  …限界以上の疲労に困憊して、意識を失ったと…。  脩介は少女の様態をそう見ていた。 「まぁ、仰せのままに、安静にしてみましょう。…それで、大丈夫かと思います。」と、己の見解を主人に伝えた。 「うむ。よろしく頼む。」と、微笑みながら龍田が告げていた。 「はい。」と、脩介は淡白に返事をした。  抑揚のない口調。  無表情。  先の疑問には、いつの間にか納得してしまったのかどうか、普段通りの風間脩介が、そこにいた。     
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