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そう言って、脩介は主人に背を向けた。
少女を両手で抱き抱えると、スタスタと主人の命に従うべく玄関から去っていった。
去り際に、脩介は…。
「ああ。その呆れることも、それも馬鹿らしくなったので、金輪際は、やめることにしたんですけどね。」と、そんな追い打ちを残した。
残された龍田は…。
「…ったく、ほとほと主人を退屈させない御家人だな。…アイツは…。」と、顎を摩りながら、脩介の消えた方に向かって独り言を呟いていた。
それから…。
「…さて…。」と、龍田は決意を漏らした。
左の手は、腰の刀の柄を強く握りしめている。
瞳に幾許かの気迫を込める。
丹田に力を込めて歩き出す。
龍田は、その足で縁側に抜け、そこに置かれていた草鞋に履き替えた。
草鞋の横には、一本の木刀が置かれている。年季の入った木刀だ。
龍田は木刀を手に取り、そして、軽い深呼吸と共に中庭へと降りたのである。
冬の月夜のこと。
中庭の至る所では、半ば表面の凍っている根雪が、月明かりを反射してキラキラと輝いていた。
その中心に立ち、しっかりと両足で地面を捕まえた龍田は…。
木刀を振りかぶり…。
そして振り下ろした。
また、振りかぶり…。
また、振り下ろした。
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