9人が本棚に入れています
本棚に追加
幕間 其の壱
**
夢を見ていた。
いつも通りの夢。
いつも見る夢。
夢の世界は、紅く…。
…酷い世界だ。
業焔は荒れ狂いながら渦を巻いて、天を衝くほどに高く盛っている。
灼熱に空気が溶けている。
闇まで燃える。
世界は爛れて燃えていた。
私は…。
…ただ、恐ろしい。
炎の中心では、あの男が嗤っているではないか。
…嗤っているではないか…。
それが…。
…恐ろしくて堪らないのだ。
逃げ出したかった。
けれど、夢の中の私は、決まって、動きを忘れてしまっている。
恐怖に苛まれながら、ただ、身体を焼かれるのを待っている。
…私は、酷く脆弱で…。
…恐ろしくて堪らなかった。
この夢を見るたびに思う。
この夢を見るたびに思い出す。
…私は脆い。
この夢を見るたびに、己の弱さに嫌悪する。
…私は危うい。
夢の世界と共に、私の心が焼け爛れていく。
…私は儚い。
私の心が…。
…どうして、私の心は恐怖を拭えない…。
…求めるものは明瞭である。
そう信じて、努力はしてきたはずだ。
…求めるものは…。
そう信じて、多くの犠牲を払ってきた。
十年の月日を懸けて、…だ。
…けれど…。
私は、未だ、この夢を見てしまう。
私は…。
…私は…。
…どうすれば良い?
きっと…。
焔の中心で嗤う、あの男を殺せば…。
…きっと、この夢は終わる、…はずだ。
それが…。
…私の自身の証明…。
…尊厳を勝ち取るのだ。
そうと信じながら…。
その日も…。
…私は恐ろしい焔獄の夢の中に堕ちていくのだ。
最初のコメントを投稿しよう!