弐 鎮座す蛇

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弐 鎮座す蛇

   **  その日は大雪になった。  厚い雲のせいで、もう太陽が昇っているはずの時間帯だというのに、随分と仄暗い。  道の雪がどんどんと積っていく。  そんな昼下がりのことだった。  阪崎龍田は雪道を行く。  正装に身を包んでいた。  思えば、このところ右腕の傷のために、長く非番を取っていて、月代も髭も無精に伸ばしたままだった。  それを綺麗に剃り上げた。  裃を付けて、一番立派な袴を穿いていた。 表情もどこか引き締まった印象があった。  そうして…。  彼が辿り着いたのは、とある武家屋敷の前だった。  相当に立派な武家屋敷である。  門の前には警備役の使用人を立たせているほどである。  龍田は門の前で番傘をたたみ、門番に軽く挨拶をした。  すると、門番は門を開き、龍田は門の向こう側へと迎え入れられたのである。 門に掛った表札には、『室谷』と、そう書かれていた。  門を潜った龍田は、玄関を上がり、客間へと通された。  真新しい藺草の香りのする綺麗な客間の、その下座に用意された座布団に、龍田は正座する。  上座を見れば立派な床の間と、その前には荘厳な金刺繍の入った荘厳な座布団と、曲線の豊かな漆塗りの肘掛けが置かれている。     
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