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「馬鹿者ッ。気を引き締めろッ。殿を御守りするのじゃッ」と、中衛からの激励が響いた。 「油断するなッ」と、今度は後衛が叫んだ。  同時に、ボッボッという鈍い音がした。 またしても、雪が割れた。 しかも、今度は後衛のいる辺りの道の左右両側が二ヶ所だ。 割れた雪の中からは、やはり同じような黒装束に全身を包んだ曲者が飛び出したのである。  油断するなと言いながら、一番に油断していたのはこの後衛だったことだろう。それはそうである。彼等は一対四十という圧倒的に有利な戦いの、その一番死地から遠い場所に陣取っていたのだから。  不意を突かれた身体は咄嗟には動けない。  そうして動けなければ、死あるのみである。動けない身体は、永遠に動きを失って倒れこむばかりだった。  剣戟の音と、斬撃による悲鳴が鳴り響いていた。  雪積もる竹林の道には、真紅の大雨が降り注いでいたのである。  結局。  この雪中での藩主襲撃事件は、藩主・葛西宗秀こそ無事だったものの、十六人もの護衛役が死亡し、重軽傷者が合わせて十人以上という、藩にとっては実に痛ましい結末を迎えた。     
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