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壱 月に少女
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「こりゃ、もう使いモンにはならんだろうな」
阪崎龍田(さかざき・りゅうだ)の右腕に下された医者の見解がそれだった。
まさに医者が匙を投げたというヤツである。
まるで使い古して壊れてしまった雑貨か何かを扱うような口ぶりで、医者は龍田に、悲痛な宣告をしたのである。
「使い物にならねェって、そんな…。何とかならねぇのかよ?」と、龍田は食い下がる。
腕の一本である。到底、諦められる話ではない。
必死の形相で訴えた。
そんな龍田を悲痛そうな目で見つめながら、医者はゆっくりと首を横に振った。
龍田は医者の前に晒している自分の右腕を眺めた。
肩口から肘のあたりにかけて、深く抉られた刀傷が見える。
思えば、指先の感覚も薄まったまま、もう、一ヶ月が経過している。
…何となくは理解していた。
けれど、やはり止めを言葉にされるのは、実に痛々しかった。
「でも、それでも、…何か方法があんだろうにッ」と、せめて言葉だけでも希望が欲しかった。
だが、医者の言葉は、それを赦すつもりはないらしい。
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