壱 月に少女

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「神経がズタズタにされている上に、肉もゴッソリ抉られとる。当然じゃ。下手をすれば命にも関わるほどの大怪我だったんじゃよ。…だから、…命が在るだけでも良しとせにゃならん。ある意味、腕一本で済んで良かった」  医者の言葉に疑う余地がないことは知っていた。  けれど、心が受け入れなかった。 「化膿を防ぐための処方薬は出す。…ワシにできることは、そこまでじゃよ」  龍田の意識は、半ば、まどろんでいた。  全身が麻痺の中に落ちていて、眼に映る風景さえも忘れながら、思考は凪の中に浮かぶようにして停留していた。  ギリと音を鳴らして、龍田は奥歯を噛みしめた。  龍田は、動かぬ腕を首からサラシで吊りながら、診療所を後にし、帰路を進んでいく。  ふと、道の真ん中に立ち止まり、空を見上げてみる。  …冬の空は、どうにも、冷え切った蒼に染まっていて…。  怒りと悲しみから、眼頭に熱いものが込み上げてくるのを感じていた。  慎々と雪が降っていた。    **  その日、龍田は真っ直ぐに家へ帰ろうとはしなかった。  右腕に力を込めようとする。  けれど、その力は腕には籠らず、どこか虚空の彼方へと抜け消えていってしまうのである。  そうした行為を、龍田は繰り返していた。  城下町の蕎麦居酒屋で、酒を飲みながらのことだった。  慣れぬ左手で猪口を持ち、不器用に酒を喉に注いだ。  その酒が身体に染み入ると、ズキリと、右腕の傷が痛みだす。     
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