壱 月に少女

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 それで、龍田は…。  …ああ、右腕は在るのだな。  そう思った。  けれど、それに僅かな望みを懸けて、右腕に力を込めてみると…。  やはり、力は虚空に吸い取られていくばかりだった。  ふと、龍田は腰に差した己の愛刀に眼をやる。  無銘ながら、草臥れるということを知らぬ刀で、長年に渡って共に時間を過ごした相棒である。刀の柄のほうには、龍田の握りの形がくっきりと刻まれており、また、龍田の腕のほうには、その刀の重さと刃渡りの感覚が血液のように循環しているのだ。  …こんな形でオマエと決別せねばならぬとはな…。  そう思うと龍田の胸には、それまでの悲しさに加えて、激しい怒りが湧いて出てきた。  憤怒。  それまでの猪口で酒を入れるくらいでは、到底、収まりそうもない怒りで、龍田はおもむろに徳利の方を掴み、それで酒を流し込んだ。  すると、酒と怒りが身体の中で混じり合い、身体がビリビリと激しく震えだした。  …酷く激しい怒りだ。  …誰にでもない怒りだ。  それが不意に湧いて出た。  そうだ。  龍田の怒りの矛先は、腕を斬りつけた者に対してでも、その事件に関わった誰に対してでもなく、また、動かぬ腕の不自由さにでもなく…。     
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