9人が本棚に入れています
本棚に追加
それで、龍田は…。
…ああ、右腕は在るのだな。
そう思った。
けれど、それに僅かな望みを懸けて、右腕に力を込めてみると…。
やはり、力は虚空に吸い取られていくばかりだった。
ふと、龍田は腰に差した己の愛刀に眼をやる。
無銘ながら、草臥れるということを知らぬ刀で、長年に渡って共に時間を過ごした相棒である。刀の柄のほうには、龍田の握りの形がくっきりと刻まれており、また、龍田の腕のほうには、その刀の重さと刃渡りの感覚が血液のように循環しているのだ。
…こんな形でオマエと決別せねばならぬとはな…。
そう思うと龍田の胸には、それまでの悲しさに加えて、激しい怒りが湧いて出てきた。
憤怒。
それまでの猪口で酒を入れるくらいでは、到底、収まりそうもない怒りで、龍田はおもむろに徳利の方を掴み、それで酒を流し込んだ。
すると、酒と怒りが身体の中で混じり合い、身体がビリビリと激しく震えだした。
…酷く激しい怒りだ。
…誰にでもない怒りだ。
それが不意に湧いて出た。
そうだ。
龍田の怒りの矛先は、腕を斬りつけた者に対してでも、その事件に関わった誰に対してでもなく、また、動かぬ腕の不自由さにでもなく…。
最初のコメントを投稿しよう!